「気がついたら東京にいた」【げんとくの文集2020その4】
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本文の前に

この文章は、げんとくの2020年度文集を何回かに分けて投稿する、第4回です。
(本記事で公開するにあたって一部変更点があります)

「文集って何?」という方はこちらへ!

第4回は3章の「増えていく」より「3-4,「どっか行っちゃう人」」「3-5,エロゲ的涙腺刺激法」を掲載します。
今回は解離性障害になったパートナーとの間で、最大の事件と衝撃的な(?)結末について書いています。

3-4,「どっか行っちゃう人」

自分自身そう思っていた、9月の頭に事件(と表現しても許されるだろう)は起きる。ますだの母から連絡があった。

「ますだが、気付いたら東京駅にいてパニックで泣いている・・・」

とりあえず自分としては迎えにいくほかなかった。

夕方に電話があったこともあり、その日中の帰宅は難しいと判断し、自分とますだは一晩を共にすることになったが、これがもう大変だった。

「大変」の中身は二つある。

一つは単純に入れ替わりが激しく、精神状態が不安定だったこと。ごはんからなんとか聞き出せたのは、当時知っていた誰でもない新たな人格が勝手に東京まで来てしまったということだ。そのごはんもそれまで見たことがないくらい不安定で、辛そうにしていた。

そしてもう一つが、ごはんから入れ替わって現れた。「どっか行っちゃう人」(長いので以下「逃避人格」と呼ぶ)との初対面である。

これまで数件の人格初対面を経験した上で得た、自分の謎の自信を彼女はぶち壊した。

まず会話が通用しない。逃避人格は現れるやいなやすっと立ち上がり、ホテルの部屋から出ていこうとする。腕を掴んで抑えると抵抗される。力こそ弱いものの、冗談の抵抗の仕方ではない。この時以上に本人が非力でよかったと心から思うこともないだろう。

かくして自分は彼女を押し倒す形で取り押さえた。これは抵抗の中でお互い怪我をしないためだ。そのためには自分の体重で押さえ込み、抵抗自体させないのがベストだった。

「離せ」

ますだの顔と声で言われたこの言葉は突き刺さった。逃避人格に「行きたい場所」などない。ただその名の通り、逃げ出したいだけなのだと悟った。そしてそれは、その時の環境がますだにとっても苦しいものであることを意味していた。

その日は一晩警戒しつつ、なんだかんだで3時間くらい寝たと思う。最終的にますだに戻って、それからはなんとか大丈夫だった。翌日の昼に、駆けつけたますだ母に引き渡してことなきを得た。自分にとって今年で一番衝撃的な1日だった。

逃避人格はその後もたまに現れてみんなを困らせたが、幸いにも頓服(精神が不安定になった時に飲む薬)の存在を知り、それを飲むことで逃避を抑えることができることを知ったと自分にLINEで教えてくれた。逃避行動については、彼女が出てきた時いつもそうなるわけではなく、「じっとしていられない時がある」のだと知った(その意味で彼女を「逃避人格」と呼ぶのは必ずしも正確とは言えない)。そのやりとりをしてから、逃避行動はピタリと止んだ。

3-5,エロゲ的涙腺刺激法

そして、11月1日を迎える。実は10月末から自分はこっそりと大阪に帰っていて、ますだと一緒にいた。夕方、自分はiPadで本を読んでいて、ごはんがそれを不思議そうに眺めていた。その日は自分たちにしては珍しく夕食の予約をしており、自分はその時間が近づくにつれて、「せっかくの機会なのにますだは食べられないのだろうか」みたいなことを考えていた。

そろそろ出かける準備をしようと声をかけ立ち上がったところで、ごはんが話し始めた。

最近のますだの様子を見て、他人格全てとの合意のもと、いなくなることを決めたこと。

もうすでにごはん以外の人格はいなくなったこと。

ごはんが一番昔からいるため、連絡役として残ったこと。

そして、もう間もなくごはん自身も消えること。

自分は「とうとう来たか」と思った。ただ一方で「あまりにも急すぎる」とも思った。普通に考えて症状のピークと思える逃避人格の発生から2ヶ月経たずに消えるなんて、スピード解決もいいところだ。

一応付け加えておくと、逃避人格の発生から自分はますだといろんなことを相談し、状況の改善を図った。その上で最も効果があったと思われるのが「スモールタスクリスト」の存在である。これはGoogleスプレッドシートでお互いに毎日2つ簡単な目標を設定し、達成することでますだの自己効力感を高める狙いだった。実際、この活動の効果は相当にあったと思う。むしろ2ヶ月で人格の統合が果たせたことが効果を示しているんじゃないかとすら思う。

なんにせよ、ごはんはいなくなる。

自分はごはんに「あなたはますだの一部だと思っているから、きっとまた会える」という趣旨のことを言った。「あなたのことは忘れない」とも。

ごはんは泣いていた。

肩を竦めて「ごはんのことは忘れた方がいいよ?」と言った。

あれだけ仲良くしといて逆にどうやったら忘れられるのか、と問いただしたくなったのは、ごはんがいなくなってからずっと後のことだった。

あとはいつも通り、入れ替わるだけだった。

ふっとこちら側に倒れ込みながら小さく「バイバイ」とこぼした時が自分の涙腺のピークでもあった。予約がなかったら普通に泣いてたかもしれない。

いつもより少し長めのように感じる、入れ替わりの時間を経て予想通りの人物が帰ってきた。それからすぐお店に移動したのでわちゃわちゃしたものの、乾杯はますだの人格統合祝いになった。

自分は「やっぱりエロゲ展開になったなあ・・・」としみじみ思っていた。

注意

※本記事はAsTobe 2020年度文集『STAND』より一部修正したものを掲載しています。

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